今回は『枕草子』の「中納言参り給ひて」を解説していきたいと思います。
文学史
作者
清少納言
成立
1000年ごろ
ジャンル
随筆
内容
「方丈記」「徒然草」とともに古典三大随筆の一つで、日本最初の随筆文学。
明るく知的な「をかし」の文学として知られている。
本文
中納言参り給ひて、御扇奉らせ給ふに、
「隆家こそ、いみじき骨は得て侍れ。それを張らせて参らせむとするに、おぼろけの紙はえ張るまじければ、求め侍るなり。」
と申し給ふ。
「いかやうにかある。」
と問ひ聞こえさせ給へば、
「すべて、いみじう侍り。『さらにまだ見ぬ骨のさまなり。』となむ人々申す。まことにかばかりのは見えざりつ。」
と言高くのたまへば、
「さては、扇のにはあらで、海月のななり。」
と聞こゆれば、
「これは隆家が言にしてむ。」
とて、笑ひ給ふ。
かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、
「一つな落としそ。」
と言へば、いかがはせむ。
現代語訳
中納言(隆家)が(中宮定子のもとに)参上なさって、(中宮に)御扇を差し上げなさる時に、
「(私)隆家は、すばらしい(扇の)骨を手に入れてございます。その骨に紙を張らせてから差し上げようと思いますが、ありふれた紙は当然張ることが出来ないので、(その骨にふさわしい紙を)探しているのでございます。」
と申し上げなさる。
「どのような骨なのか?」
と、(中宮が中納言に)お尋ね申し上げなさると、
「何から何まですべて素晴らしい骨でございます。『今までに全く見たことがない骨の様子です』と(これを見た)人々が申します。本当にこれほどの(扇の骨)は、見られませんでした。」
と、誇らしげにおっしゃるので、
「ということは、扇の(骨)ではなくて、クラゲの(骨)のようですね」
と(私が)申し上げると、
「これは(私)隆家が言ったことにしてしまおう」
と言って、(中納言は)お笑いになる。
このような(自慢話のような)ことは、聞き苦しいことの中にきっと入れてしまうのが良いことなのだけれど、(他の女房たちが)「一つも書き落とすな」と言うので、仕方がない。
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